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研究者に聞いた「ゲノム編集食品」

2019年3月、厚生労働省は遺伝子を効率良く改変できる「ゲノム編集」という技術を使った一部の食品を、従来の品種改良と同じであるとし、安全審査を受けなくても届出をすれば流通を認める方針を固めました。

ゲノム編集食品は早ければ今年の夏に流通する事が決まりました。

そこでベジタブルジャーニーでは、正確なゲノム編集技術の知識を深める為、開発を進める研究者にインタビューをしました。

向かったのは「iPS細胞」や「新元素」の発見など革新的な研究成果を輩出する日本で唯一の自然科学の総合研究所「理化学研究所」

お話を伺ったのは国立研究開発法人 理化学研究所 植物新育種技術研究チームリーダーの「加藤 紀夫(かとうのりお)」さん。

 

 

ゲノム編集技術の話の前に、まずは今までにあった新しい品種を育成する技術について説明します。

 

 

交配(かけ合わせ)による品種改良

 

 

品種改良とは、人間にとって優れた品種を作り出すことを言います。 例えば「味は良いが病気に弱い」品種と「味は悪いが病気に強い」品種があるとします。

この2つを人為的にかけ合わせることで「味もよく病気にも強い」より優れた品種を作り出す事ができます。

しかし「味が悪く病気にも弱い」品種が現れる難点も十分考えられます。

そしてかけ合わせによる品種改良は、かけ合わせを行なった後の「選抜する作業」が必要となります。

 

 

遺伝子組換え技術

 

 

革新的なのは異なる「種」の遺伝子を導入できることです。 かけ合わせて選抜する「交配育種」と呼ばれる方法では得られない特徴を品種に与えることが出来るようになりました。

例えば味のいい品種に、病気に強い品種の「病気に強い」部分の遺伝子を導入すると「味も良く病気に強い品種」が出来ます。

つまり本来ある遺伝情報に全く違う遺伝子をプラス出来る技術です。

 

 

ゲノム編集技術

 

 

そして今回の本題である最新技術がゲノム編集。

遺伝子組換え作物が利用されるようになり約10年後に発見されたこの技術は、現在のところ大きく分けて2種類あります。

1つは、特定の遺伝子の一部を高い精度で狙い、酸素により切断したときに発生しうる変異を利用し、本来得られる「特徴」を失わせるというもの。

もう1つはゲノム上の狙った部分に遺伝子、もしくは遺伝子の一部を入れるという技術です。

 

それでは以下、インタビューの内容です。  

 

 

 

【遺伝子とゲノムとは】

 

 

基本的にはゲノムというのは、遺伝情報のワンセットと考えてもらえれば良いかと思います。

人間で考えるとわかりやすいんですけど、母親と父親から1セットずつくるものを1組の「ゲノム」という言い方をします。

遺伝子の解釈には色々な定義があるのですけど、ゲノムの中に様々な遺伝情報が入っていて、翻訳されてタンパク質になるものを「遺伝子」と呼ぶことが多いですね。

ゲノムの中にはDNAというのがいっぱい入っているんですけど、そのうちの9割以上がタンパクに翻訳されない情報なんです。

実は最近、その9割も機能を持っていることがわかってきていて、それも含めて遺伝子ということがあるので、遺伝子の定義は多様ですけど概ねそんなところです。

 

 

【遺伝子組換えとゲノム編集の違いとは】

 

 

遺伝子組み換えはゲノムの中のどこに入るかがランダムなのでわからないんです。

もしかしたら、組換えた遺伝子が働き難い場所に入ってしまう場合もあるし、あとは極端な話、大事なもともとの遺伝子をつぶしてしまうこともあります。

なので、遺伝子組み換えで実際に使える品種を作るときは、組換え体を数千単位で作り、その中から良いものだけを種子会社は選んでいます。

一方、ゲノム編集というのは遺伝子の中の特定の場所を切って、そこの部分の遺伝子情報を編集する技術なんです。

ゲノム編集には狙ったところに変異を起こさせるパターンと、狙ったところに何かを組み込むという2つパターンがあるんです。

いずれにしても狙ったところの遺伝情報を的確に編集する事が出来るのが、遺伝子組換えとの大きな違いです。

あともう1つは、遺伝子組換えは入れたい情報を入れますが、ゲノム編集では一回切る事によって、そこに変異だけを起こし情報を入れずとも都合の悪い遺伝子の働きを止めるといった事も出来ます。

そこは大きな違いかなと思いますね。

 

 

【遺伝子組換えとゲノム編集ではどちらが優れているという見方はありますか?】

 

 

どちらも新しい品種を育成するために重要な技術で、優劣はないと思います。

ゲノム編集技術自体は遺伝子組換え技術から10年程経ってから出来た最新技術なのですが、やっている事(遺伝子操作)はそこまで大きな違いはないですかね。

 

 

【ゲノム編集のメリット・デメリットとは】

 

 

今までの育種では交配によって新しいものを入れたり入れ替えたりしていたのですが、どうしても交配すると元々いらないものも入ってきてしまうんですよね。

また色々と交配して戻せばいいんじゃないかという事もあるんですけど、例えばいい形質になる遺伝子と、悪い形質になる遺伝子が隣同士にあった場合は、なかなか遺伝子の組み合わせが変わらず、いつまでも悪い形質を引きずったりする事があるんです。

ゲノム編集では、特定の場所を編集し、近くの使いたくない遺伝子だけを動かなくする事ができます。

以前は、不要な遺伝子を取り除くために、交配で何年もかけていましたが、それが、一回の操作でできてしまいます。

これは大きなメリットかなと思います。

身近な例ですと、シャインマスカットは元々果皮が黒っぽくなる遺伝子を持っているのですが、遺伝子の発現を調節する部位に、ある遺伝情報が入る事によって色を付ける遺伝子の発現を抑えられ、緑色の果皮になるのです。

贈答用には、黒と緑のセットが好まれますので、それをゲノム編集で作れるかもしれないということで、研究が進んでいるんです。

普通の育種では5年〜10年とやはり時間が掛かりますが、それに比べると2〜3年という時間で新しい使いたいものが作り出せます。

なので、種子会社や消費者にもメリットが出てくると思うので、そういった意味では「夢のある技術」ではないかなと思います。

デメリットに関しては、せっかく作っても消費者に受け入れられず、組換え作物と同じような規制を求められるのであれば大きなデメリットになるかと思うのですが、今の段階ではあまりデメリットというのは無いのかなと思いますね。

あくまで植物の育種という事に関しての話ですけどね。

倫理などを含めて考えて、自分の子供に食べさせていいのかという話はまた全然別次元の話になるかと思うので。

ゲノム編集技術はそれほど異質なものではなく、それまでも育種で出来ていたものがもう少し短い間隔で出せるようになるような技術なんです。

ただ今より技術が進んでいけば、乾燥に強いなど機能を加えたものも作れると思いますし、今まで除草剤耐性のものを作ろうと思うと遺伝子組換え技術を使っていたんですけど、ゲノム編集でも除草剤耐性のものが作れるので、より消費者が受け入れ易い形でそういうものが提供できればゲノム編集技術に切り替えていくのはいいのかなと思います。

 

 

 

【ゲノム編集のコストについて】

 

 

製品化まで考えると遺伝子組替え技術と比べてかなり安くなると思います。

遺伝子組換えの場合は、良質なものを選ぶ為に組換え体を1000個体くらい作った中から、最も良いものを選抜する大変な工程があり、さらに1つの組換え体について規制を通すのに約100億円掛かると言われているんですよ。

作物はグローバルに動くので1カ国だけの規制を取るだけでいいのではなく、輸出する日本で取って、アメリカで取って、ヨーロッパで取って、みたいな事をしていくと凄いお金が掛かるので、コストに見合うような売れる物でなくては作れない事もあり、遺伝子組換えの作物はあまり種類が広まっていないのが現状ですね。

ゲノム編集はこの先、規制がどうなるかわかりませんが、どうもゲノム編集については今のところは規制のハードルが低いみたいで、そうなってくると例えば野菜で使ってみようとか色々な事が可能になると思います。

 

 

【ゲノム編集技術においての健康被害は考えられますか?】

 

 

可能性はゼロではないかもしれません。

例えば、ソラニン(ジャガイモの芽にたまる毒素)を減らそうと、ソラニンができないようにゲノム編集することも可能です。

でも、その結果、ほかの体に良くない物質がたまってしまう可能性もなくはないのです。

もちろん、市場に出すときは、そういったものができていないことを徹底的に調べるはずですが、僕らが見えていないリスクが絶対ないとは言い切れないのが正直なところです。

科学技術というのはそういうところがあるとは思うんです。

その一方で、1995年以降に遺伝子組換えはすごく広まったんですけど、2016年あたりにアメリカの科学アカデミーの専門家20名ぐらいが集まって、今までに発表された1000以上もの論文をもとに検証しながら、「健康被害や環境へ悪影響を及ぼした実証は無かった」という報告が出ている事を考えると、ゲノム編集における健康被害が起こる可能性は極めて低いのではないかと考えています。

ただ、ゲノム編集技術で狙ったところ以外を切ってしまったり、そういうことは可能性としては無い訳ではないんですよね。

今は国の行政指針でそういうもの(失敗ゲノム編集)が無いということを調べなさいという指針が出ていますし、植物に関して言えば、仮に狙った場所以外のところに新しい変異が起きても、それは自然界で起こりうるものと同等と僕らは考えています。

またゲノム編集した植物体と普通の植物体を交配させて子孫を作る事によって、間違って出来てしまった変異を取り除く事も出来るので、ゲノム編集自体で重大な健康被害が起こるという事はないのかなと思っています。

 

 

【インディアンは7世代先まで考えて結論を出すと言う話を聞いたことがありますが、健康被害とはどういう基準で考えられているのですか?】

 

 

先々までの健康ということはDNAレベルに損傷が起きないかということだと思うのですけど、ゲノム編集作物に由来する食品を食べている限りにおいては、子孫に繋がるDNAに重大な損傷が起こるという事は今の科学の考え方だとなかなか難しいとは思いますね。

また、食べた人、本人についてもそれが原因で健康被害が起きるとは考え難いです。 普通の食品が持つリスクと基本的には変わらないと思います。

 

 

【今夏にも出回ると言われているゲノム編集食品とはどういうものなんですか?】

 

 

もしかすると筑波大学の先生が研究されているトマトが出るのかもしれませんね。

機能性成分であるギャバ含有量(ストレス軽減や血圧の降下にも効果があるとされる)の高いトマトを消費者に届けるために開発を進めているようです。

 

 

 

【ゲノム編集食品は一部安全確認をしなくても良いという報道がありましたが】

 

 

情報提供は求められると思うのですが、基本的にはゲノム編集で変異を起こさせる事について今のところはそういう方向ですね。

海外とかではもう既に褐変しにくい白いマッシュルームなど、色々市場に出てはいるみたいですけど。

 

 

【ゲノム編集食品は表示義務がないそうですが見分ける方法はありますか?】

 

 

無いんですよ。

遺伝子組み換え技術では、組換えた痕跡が残る場合があるのですが、ゲノム編集技術ではゲノム編集ツールがゲノム(遺伝子)に組み込まれないという事があります。

ゲノム編集技術でもいくつか種類があるんですけど、切断によって変異を起こすゲノム編集技術で出てきたものというのは、自然界に起きた突然変異とほとんど変わらず、後から見分けることができないんです。 今のところの判断では、表示してもあまり意味がないじゃないかという事になっているのではないかなと思います。

今までも行われてきたゲノム上の遺伝子配列をランダムに切断し品種改良を行う「放射線育種」と似たような技術なんですよね。

 

 

【ゲノム編集技術には人類のどのような願いが込められて研究されているのですか?】

 

 

全体の流れとしては、この先人口も増えるし、環境も悪くなる事が予想されるので、とにかく食べるものを確保しようという想いがおそらく育種関係者にはあって、その為の手段として遺伝子組換え技術も大切な手段なのですが、ゲノム編集技術もそれに向けて貢献できるのではないかと考えていると思うんですよ。

極端な話、世の中全てを無農薬無肥料栽培で賄おうと思うと、生産量が減るのでどうしても食べられない人たちが出てくると思うんですよね。

僕ら(研究者)の夢としては、人間が食べられるものは最低限地球上のどこかで作れるようにしておきたいということはあるのかなと思いますね。

ある意味、飢餓に対するリスクヘッジという部分は大きいかもしれないです。

 

 

 

【研究者からの言葉を聞いて】

 

 

話を聞いて率直に受けた印象では、今の科学技術に対して誤解をしていたというものでした。

先日報道であったように、ゲノム編集は人間の赤ちゃんにも適用が成功されました。

そんなところから考えるゲノム編集された食品は「人間が完璧に操作しているもの」という印象がありましたが、実際にはゲノム編集も生物の育種ベースであり、自然界に存在しない生物を生み出すような技術ではなかったという事です。

仮に、ピーマンにトウモロコシのような「甘味」を付け加える事は、今の技術では難しいという話でした。

今回は、あくまでも新しい技術を開発する「研究者」へのインタビューでしたが、飽食な日本でゲノム編集された食品が記載義務化されない事については、産業運用する「企業」や、運用に関するルールを法整備する「政治家」のゲノム編集に対する思案理由に謎が残ります。

しかし政治交渉力のない消費者が出来る最初の対応策としては、まず各々が「正しい知識」を身に付けるという事だと思います。

自然な物を人為的に改変する事は倫理的な側面から様々な議論はあると思いますが、「人類」としての発展を志す、そんな研究があってこその私達の生活環境だと考えると、ゲノム編集技術は必要な技術の1つなのかもしれません。

 

 

 

 

 

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